過去に子宮頸癌ワクチン(以下HPVワクチン)を接種する機会を逃した方を対象に、令和4年4月1日から同ワクチンを公費で接種できる機会が新たに設けられることになりました。対象者は平成9年4月2日~平成18年4月1日の間に生まれた方のうち、まだHPVワクチンを合計3回接種されていない方です。
子宮頸癌はヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頚部に持続感染することで発症する癌で、20歳代後半~40歳代前半に発症のピークがあります。日本では年間約11000人の方が発症し、約2900人の方が亡くなっています。子宮頸癌検診として細胞診が行われていますが、感度は70~80%程度であり、すべての子宮頸癌を早期に見つけることは難しいのが現状です。ごく初期の癌の場合でも子宮頚部円錐切除術が必要です。子宮を温存することはできますが、流産や早産のリスクは高くなり、再発リスクも数%伴います。ステージが進んだ癌の場合は子宮摘出が必要になり、身体的・精神的負担で苦しむ患者さんも少なくありません。日本では成人女性の2人に1人以上の方がHPVに感染すると言われています。9割の方は自然に消失しますが、自然免疫はほとんど獲得できないため、一度治っても何度でも感染してしまいます。約50万人の方が異形成と呼ばれる異常な細胞が増える状態となり、そのうち約2%の方が子宮頸癌に進行します。成人女性の誰もが子宮頸癌に罹患する可能性があると考えられます。
近年のスウェーデンの疫学調査では、17歳未満で4価HPVワクチンを接種することができれば、若い世代の浸潤性子宮頸癌の発症リスクを88%低下させることができ、17歳~30歳で接種した場合であっても、53%低下させることができるということが示されています。
その一方で、HPVワクチン接種後の副反応と疑われる症状が、テレビなどの報道で問題視されました。頭が痛い、身体がだるい、関節や身体が痛む、歩けなくなった、物覚えが悪くなった、等といった症状です。その後、大規模な疫学調査が行われた結果、24項目のすべての症状でHPVワクチンを接種されていない人との発症頻度に差はなく、HPVワクチンと症状との間に有意な関連性は認められませんでした。
ただHPVワクチンの接種勧奨を再開するにあたり、接種後に症状が生じた場合の体制整備は重要になります。現在、地域ごとに協力医療機関が設置され、必ず診察してもらえる体制が整えられました。気になる症状が出た場合、まずは接種された医療機関に相談してみてください。
今回、HPVワクチンの効果が証明されたこと、安全性が確認されたこと、接種後の症状に対する体制が整備できたことで、積極的な接種勧奨が再開されることとなりました。接種機会を逃した世代の方も3年間は公費で接種可能ですので、是非検討してみてください。半年ほどかけて計3回の接種が必要です。接種時の痛みは少し強めのワクチンですが、そのデメリットを上回るメリットは十分あると考えてよいでしょう。